国税庁は平成29年分の確定申告状況について公表しました。
◆所得税の確定申告書は約2198万人が提出
所得税の確定申告書を提出した方は2197万7千人で、
そのうち1283万人が還付申告でした。
一方、申告納税額があった方は640万8千人で、
その所得金額は41兆4298億円、
納税額は3兆2037億円と、
いずれも3年連続で増加しています。
また、確定申告書を提出した方で、
株式等の譲渡所得について申告した103万1千人のうち、
所得金額があった方は前年と比べ81.1%増加の
53万3千人となり、その所得金額は3兆5732億円、
1人当たりでは670万円となっています。
なお、譲渡損失を翌年以降へ繰り越した方は53万3千人でした。
◆贈与税は約46万人が暦年課税を適用
贈与税について申告書を提出した方は50万7千人で、
そのうち暦年課税(基礎控除110万円)を適用したのは
46万2千人
(特例税率23万2千人、一般税率23万人)、
相続時精算課税は4万5千人となりました。
暦年課税を適用した方について、
申告納税額があったのは36万6千人で、
その納税額は1747億円、
1人当たりでは48万円となっています。
なお、住宅取得等資金の非課税制度
(父母や祖父母などの直系尊属から
住宅取得等資金の贈与を受けた場合に、
一定の限度額まで贈与税が非課税となる制度)は
5万8千人が適用しており、
贈与を受けた住宅取得等資金4979億円のうち、
4566億円が非課税の適用を受けています。
◆多くの中小企業が支給する「定期同額給与」
役員に対する給与を損金算入するためには一定の制限があり、
多くの中小企業は定期同額給与
(支給時期が1ヵ月以下の一定期間毎で、その事業年度中の支給額が同額)を支給しています。
定期同額給与の支給額を改定する場合は通常、
決算後に開催する定時株主総会により改定する必要があり、
利益調整目的や一時的な資金繰りなどのために事業年度の中途で改定した場合には、
損金不算入となる金額が生じます。
ただし、経営状況が著しく悪化した場合や、
職制上の地位の変更などの一定事由によって事業年度中に支給額を改定する場合、
損金算入が認められます。
なお、29年4月から所得税や住民税、
社会保険料等を控除した金額が同額である定期給与についても、
損金算入が認められます。
◆税務上、役員と同様に扱われる「みなし役員」
給与の損金算入が制限される税法上の役員には、
取締役や監査役などの会社法等で規定された役員だけではなく、
「みなし役員」に該当する方も同様の扱いになります。
みなし役員とは、
①法人の使用人以外の者で、その法人の経営に従事している方
(例えば、取締役になっていない会長や顧問などが実質的に法人の経営に従事している場合など)、
②同族会社の使用人で一定の持株割合を満たし、
経営に従事している方
(例えば、社長の親族が使用人として勤務している場合など)、
いずれかに該当する場合です。
なお、みなし役員に該当する場合は、使用人兼務役員にはなれません。
マイホームを買換えた場合における譲渡益や
譲渡損失の課税の特例は、
30年度税制改正で延長等が行われました。
◆譲渡益の課税を繰り延べる特例
特定のマイホーム
(所有期間10年超、居住期間10年以上、
売却価額1億円以下)を売却し譲渡益が生じた場合は、
買い換えたマイホームを将来売却するときまで
譲渡益に対する課税を繰り延べる特例が適用できます。
ただし、
売却価額が買換えたマイホームの取得価額を超える場合、
差額分は譲渡所得として課税対象となります。
また、マイホームを売却した場合の
「3千万円の特別控除」及び「軽減税率特例」は
重複して適用することはできません。
なお、同特例は30年度改正において、
買換資産が非耐火の中古住宅である場合に、
①取得日以前25年以内に建築されたもの、
②一定の地震に対する安全性に係る基準に適合すること、
のいずれかを満たすことの要件が加えられました。
◆譲渡損失の損益通算と繰越控除
マイホーム(所有期間5年超)の売却により
譲渡損失が生じた場合で、
買換えたマイホームに
10年以上の住宅ローンがあるなどの要件を満たせば、
その譲渡損失を給与所得や事業所得など他の所得と
損益通算することができます。
また、
損益通算を行っても控除しきれない金額がある場合には、
翌年以後3年間にわたり繰越控除することができます
(合計所得金額が3千万円を超える年分は適用不可)。
なお、住宅ローン減税は併用することができます。
◆生産性向上特別措置法施行は6月頃の見込み
今国会で審議中の「生産性向上特別措置法案」では、
市町村の認定を受けた中小企業が取得する
一定の設備について、
固定資産税の課税標準を3年間ゼロ~1/2
(市町村の条例で定める割合)に
軽減する特例措置の導入が予定されています。
この特例措置は、各市町村の判断により実施の有無や、
軽減割合(特例率)を定めることになっていますが、
中小企業庁が公表した市町村に対する調査によると、
大半の市町村が「導入促進基本計画」を策定し、
固定資産税の特例措置を導入するとともに、
特例率はゼロとする予定となっています。
なお、特例措置の実施は、
「生産性向上特別措置法案」の成立・施行後に、
各市町村で条例の制定等が必要となりますが、
同法案の施行は6月頃になると見込まれています。
◆計画認定後に取得した一定の設備が対象
固定資産税の特例措置の適用を受けるためには、
労働生産性を年平均3%以上向上させるために
必要な先端設備等の導入計画
(先端設備等導入計画)を策定し、
市町村の認定を受ける必要があります。
また、対象となる設備は、
生産性向上に資する指標が旧モデル比で
年平均1%以上向上する設備で、
機械装置(160万円以上、販売開始から10年以内)や、
測定工具・検査工具(30万円以上、5年以内)、
器具備品(30万円以上、6年以内)などが対象となります。
設備の取得時期については、
先端設備等導入計画の認定後に取得することが
条件となっているため、注意しましょう。
◆抜本拡充された事業承継税制の特例措置
30年度税制改正において、事業承継税制
(認定を受けた非上場株式を贈与又は
相続等により取得した場合の納税猶予制度)の
特例措置が創設されました。
◎対象株式数の上限撤廃……
全ての議決権株式を納税猶予の対象とします。
◎納税猶予割合の引上げ……
相続時の納税猶予割合を100%に引上げます。
◎雇用維持要件の弾力化……
雇用維持要件(承継後、5年間平均で雇用の8割を維持)
を満たせなかった場合でも、
納税猶予が継続できます
(経営悪化等が理由の場合、認定支援機関の指導・助言が必要)。
◎対象者の拡大……
親族外を含む複数の株主から、
最大3人の後継者への承継も対象になります。
◎経営環境変化に対応した減免制度……
事業の継続が困難な事由が生じ、
会社を譲渡・解散した場合には、
その時点での納税額を再計算し、
承継時に計算された納税額との差額を減免できます。
◎相続時精算課税制度の適用範囲の拡大……
贈与者の子や孫以外でも相続時精算課税が適用できます。
◆特例措置を適用するには
この特例措置は適用するには、
①35年(2023年)3月までに、
特例承継計画(後継者や承継時までの経営見通し等を記載)
を都道府県庁に提出する、
②30年1月から39年(2027年)
12月までに贈与・相続等により
株式を取得することを満たす必要があります。
なお、35年(2023年)3月までに
贈与・相続を行う場合は、贈与・相続後に承継計画を
提出することも可能です。
持続的な賃上げ等を促進するため、
30年度税制改正において、
国内雇用者に対する給与等支給額を増額させた場合に
一定割合を税額控除できる所得拡大促進税制が改組されました。
◆主な適用要件等は
要件等は大企業と中小企業で異なります。
なお、税額控除は法人税額の20%が上限です。
◎大企業……
①継続雇用者給与等支給額の対前年度増加率が3%以上及び
②国内設備投資額が当期の減価償却費総額の9割以上である場合に、
給与等支給総額の対前年度増加額の15%が税額控除できます。
また、①及び②に加え、
③教育訓練費が前期・前々期の年平均額から
20%以上増加を満たす場合は、
増加額の20%が税額控除できます。
◎中小企業……
①継続雇用者給与等支給額の対前年度増加率が1.5%以上である場合に、
給与等支給総額の対前年度増加額の15%が税額控除できます。
また、①の増加率が2.5%以上である場合に、
②教育訓練費が前期から10%以上増加、又は
③経営強化法の認定に係る経営力向上計画に記載された
経営力向上が確実に行われたことの証明、
のいずれかを満たす場合は、
増加額の25%が税額控除できます。
◆判定の対象となる「継続雇用者」とは
改正では、上記の要件における「継続雇用者」の範囲も見直され、
前期から当期までの全期間の各月で
給与等の支給を受けた国内雇用者で、
雇用保険の一般被保険者が対象となります。
これにより、
継続雇用者に対する給与等支給額の総額について、
前年度と比べた増加率が判定の基礎となります。
30年度税制改正において、
被相続人等の居住または事業用に使われていた宅地等を
相続により取得した場合に
一定要件を満たせば相続税評価額が大幅に減額される
「小規模宅地等の特例」の適用要件が厳格化されました。
◆「家なき子」に係る特例の対象範囲の見直し
居住用宅地等は、330㎡まで評価額を
80%減額できますが、
この特例を適用できるのは、①配偶者、②同居親族、
③配偶者又は同居親族がいない場合に、
相続開始前3年以内に国内にある自己又は
自己の配偶者が所有する家屋に居住したことがない
別居親族(いわゆる「家なき子」)、です。
改正では③の対象者の範囲について、
*相続開始前3年以内に、
3親等内の親族又は特別関係のある法人が所有する
国内の家屋に居住したことがある方、
*相続開始時において居住の用に供していた家屋を
過去に所有していたことがある方、が除外されます。
30年4月以後に相続等で取得する財産について
適用されますが、改正前の要件を満たしている場合、
経過措置が設けられています。
◆貸付事業用宅地等の対象範囲の見直し
また、貸付事業用宅地等については200㎡まで
評価額を50%減額ができますが、
改正により特例を適用できる貸付事業用宅地等の範囲から、
「相続開始前3年以内に貸付事業の用に供された宅地等
(相続開始前3年を超えて事業的規模で貸付事業を行ってい
る場合は除く)」が除外されます。
この改正も30年4月以後の相続等に適用されますが、
改正前から貸付事業の用に供されている宅地等には
適用されません。